これはフィクションです。
時計に目をやると、すでにお昼を回っている。
昨日の予報では、朝方には上がっているはずの雨が、まだ降り続いている。
今日は久しぶりの完全なオフ。
抱えていた大きな案件がようやく片付き、今日はお気に入りの公園でゆっくり本を読むはずだった。
僕はいつも、仕事に疲れるとあの公園で本を読む。
暖かく柔らかな日差しの下で、お気に入りの本を読みながら、時にはボーっと、時にはうたた寝をしながら2,3時間。
そうすると、湯の中の昆布からにじみ出る出汁のように、僕の体から疲れが抜けていく。
心待ちにしていたささやかな幸せを、無情にも容赦なく振り続ける雨が流していく。
神様なんてやっぱりいない。
こんな些細な願いすら叶えてくれないのだから。
僕はふてくされてパソコンのキーボードをたたく。
画面には、友人達の幸せな日常が並んでいる。
僕はそれを、少し冷めた目で、言いようのない気持ちで眺めている。
ふと一枚の写真に目が止まる。
そこには懐かしい磁器のコーヒーカップと、ガラスの器にのったケーキ。
そして友人の愛読書であるブローディガンの文庫が写っている。
猫の写真が貼られた白いカウンターと、茶色のカウンターテーブルが、落ち着いた雰囲気を醸している。
ここは友人のお気に入りのカフェ。本もたくさん置いてあるっていってた。
そういえばまだ行ったことなかったな。
名前はたしか、ケディバシュカン。
場所は常滑だから、そんなに遠くない。
まだ見た感じ、雨は止みそうにないし。
そうだ、ケディへ行こう。